#8 PRIDE IS PRIDE
「……?」
目が覚めれば、そこは七顚屋の一室だった。
先刻までの状況を思い出す。確かいつものように悪戯をしてみれば、憤怒に叱られ、暴食に庇われ、怠惰がソファから転げ落ち、その面倒を強欲が見る。助けを色欲に求めてみれば、二階の空室の掃除で帳消し、ということで丸く収まり、埃の絨毯を掃除機で吸い取っていた筈なのだが。どうやら窓から差す陽光に途中で寝てしまっていたらしく、嫉妬の身体はベッドの上にあった。
ぽっかりと何かが抜け落ちたような空虚さが胸を満たしていた。多分、夢を見ていたのだと思う。鮮明に見えていた景色だったのに、睡眠から覚醒してしまえば一瞬にして記憶の彼方へと飛んでいくのだから夢というものは残酷だ。ただ、覚えてはいないが悪いものではなかった、そんな気はしていた。
コンコンコン、と律儀にドアが三回ノックされ、間の抜けた返事を返してみれば暴食が扉を開けた。
「しっとさん。おそうじは、終わりそう? あにさまがほうっておけって言うのだけれど、やっぱり一人じゃたいへんだと思って……」
「わは~、さっすがぼーしょくちゃんやっさし~! アタシも丁度飽きてきたところだったから交代してよお!」
「こうたいしにきたとは一言もいっていないのだわ……」
「やだなあ冗談冗談!」
調子のいい嫉妬に苦笑する暴食。そのやり取りの裏で、一階から玄関のノッカーの音が響き渡ってきた。
「や、お客さんじゃない? うーん……まあ掃除は減るもんじゃないもんね、アタシ見てこよっと!」
「わ、わたしもいくのだわ!」
無性に夢の内容が気になってはいたが、ないもののことを考えても仕方がない。パズルのピースが一つ欠けたところで、世界は今日も忙しなく回る。嫉妬と暴食は立ち上がって、部屋を後にした。
空き室の机の上で、古びたゴーグルのレンズが、陽の光を反射していた。